将棋の世界で一人前の四段になった棋士がまず目標にするのは、将棋会館を離れての対局である。 というのも、TV対局を除く公式戦はタイトル戦などの大きな勝負以外は全て、東西の将棋会館で行われるからである。 タイトル戦は、全国の一流旅館、ホテルで対局をする。初めて檜舞台に出て、前日から対局場に入り、盛大な前夜祭に出席。そして当日は羽織袴に身を包んで盤に向かう。自分が一流棋士の仲間入りをしたことを実感する、至福の時である。 私が初めて将棋会館を離れたのは十五年前。21歳で名人を獲得した時の七番勝負である。その第一局はオープンしたばかりの東京のホテルで行われた。スイートルームに泊まって感激した私は、以来そのホテルを東京の常宿にしている。 将棋会館を離れての対局も、もう二百局以上になる。北は旭川から南は熊本まで全国各地を回っているが、有馬温泉は私にとって自分の庭での対局といえそうだ。 有馬では計十局以上戦っているが、自宅のある六甲アイランドから六甲山を抜けて30分でつくのが嬉しい。有馬に入れば、神戸市内とは思えない静けさ。対局中に疲れた目を休める緑も豊富にあり、素晴らしい環境である。 もちろん対局は真剣勝負であり、気は抜けないが、それでも美味しい食事と豊富な湯量の温泉は楽しみたい。中でも、有馬特有の金泉はいかにも効きそうな感じがして、お気に入りの一つである。 ただ、そうは言っても実は最近、有馬へはあまり行っていない。有馬での対局の多い、王位戦、棋聖戦、王座戦のタイトル戦にあまり出ていないからで、今年は行きたいと思っている。