家の近くにあるから、というばかりでなく、(自宅からゆっくり車を走らせても1時間ばかり)私は有馬温泉が好きだ。山間を縫って車が分け入ると、とたんに幽邃な仙境があらわれる。さっきまで繁華な町なかにいたのに。湯の煙が仄々と白く、それだけで心ははずむ。 都会に近いといっても、俗塵をはなれて緑が美しい。紅葉の季節、桜の時季、いずれも好きだ。金泉・銀泉と呼ばれる、いで湯の質もよく、そしてこの湯のまちのお料理は、鄙びていないですっきりと垢ぬけていて、洗練されているように思う。 有馬は古い湯のまちであるが、昔ながらの坂になった町なみをあるくのも私は好きだ。有馬筆を買ったり、山椒の実の佃煮を買ったりして散策をたのしむ。また、竹篭細工の店へ、ふとさそわれて入り、花篭やお盆や、と、思わず知らず二つ三つ買ってしまうのも、旅の楽しみである。 そういうとき、店をでると、しぐれが通り過ぎたりして、「おお寒、寒・・・・」と宿へかけこみ、いそいでまた、大浴場の、湯気もうもうの中へ身を入れるたのしさ。宿によれば、あるいは部屋から、遠く神戸の灯りもみえるかもしれない。それも人恋しい気持ちをさそっていいものだ。 俗ならず、鄙びてもいず、しっとりとした大人の温泉として、私は有馬温泉が好きだ。