もう六年も前の事になるが朝のテレビ小説で「おんなは度胸」というTVドラマが放送されたことがある。私が「花村清太郎」泉ピン子さんがその妻「玉子」という配役であった。 ご記憶の方もあろうかと思うが、お蔭様で大変視聴率も高かった。要するにこの二人が「旅館」とくに「温泉旅館」の経営の難しさに直面して人生の難しさを体験していくのがこのドラマの主流なのだ。ドラマでの温泉地は「有馬温泉」ということになっていたが、これらは皆様のご想像通り「有馬」と「白浜」を一緒にいたもので、この二ヶ所でロケーションも行われたが圧倒的に多かったのが「有馬」で土地の皆様のご協力を得て素晴らしい成果を収めることが出来たことについては心からお礼を申し上げたい。ロケは大変乍らも和気あいあいの中に進行したがNHK大阪放送局のスタジオでのビデオ収録はかなりきびしいものがあった。録画スケジュールは連日深夜あるいは早朝に及びスタッフ、キャスト共極限状態にあったといっても良いだろう。特に橋田先生のセリフの長さが半端じゃない。忽ち出演者の中で「グウの会」が結成された。このグウの会というのは、グッドでもなければ「グウの音も出ない」のグウでもない。 実はジャンケンのグウ・チョキ・パアのグウである。長ゼリフを如何にもスラスラ喋っている様に見えても机の下に見えない手は全員ギュッと握りしめられているという訳で誰言うこともなく「グウの会」になったのである。このグウも努力の甲斐なくトチッてあえなく、パアになったこともしばしばだった。この苦労もドラマのモデルとして協力して頂いた、温泉旅館のお陰で無事最終回を迎えることが出来たが終了後主人公「花村清太郎」の私は一人この旅館の客になった。旅館は亡き父が大おかみと親しくして実はドラマの始まる前から藤岡ファミリーの常宿だったのだ。 花村清太郎を温かく迎えてくれたのはこれが神戸市かと思うほどのあく迄もすんだ空気、六甲の山々を渡って来る心地よい風、、、それと心まで溶かすような豊かな湯、、、そしてなによりも嬉しいのが暖かい人情であった。この原稿を書き乍ら私の心はすでにあの懐かしい有馬へととんでいる。